フリップ芸・小池都知事の要請に、飲食店の反乱【松野大介】
日本は世界の感染拡大国より数十分の1の死亡者数であるにも関わらず、いつになれば自粛を繰り返されずに済むのかわからない。3月、41店舗の飲食店を持つグローバルダイニングが東京都を訴えた。グローバルダイニングの店舗は通常通り営業を続け、連夜にわたり盛況だという。昨年、最初に飲食店を感染源と名指しした小池都知事は先日、「8時にはみんなかえる」とフリップで要請した際、コロナ感染によって死亡した志村けんの出演番組のタイトル「8時だよ」と口走ったことで批判された。今月、煽り報道のテレビと政治によってコロナ禍が終わらないと寄稿した元芸人の作家・松野大介氏が、1年半にわたる小池都知事のフリップ要請を振り返り、飲食店の東京都への訴訟を通して、コロナ禍が長引く理由を解説。
■小池都知事 フリップ芸ダイジェスト
【2020年】
「NO!! 3密」(3月)
昨年の新語・流行語大賞の年間大賞に選ばれた《3密》。当時は日本も欧米のように感染爆発する可能性があり、フリップの訴えは有効だったろう。同時に「感染爆発 重大局面」も出した。
「ウィズ コロナ宣言」(5月)
この頃はウイスルと共存しようと述べる専門家が多かった(のちに一部のテレビや政治家がゼロコロナと言い出すようになった)。
「感染防止徹底宣言」(6月)
事業向けにステッカーを作成したこの頃から「飲食店」が感染源であると匂わす。〝東京アラート〟を発動し、都庁を真赤に染めた。
「“夜の街”要注意」(7月)
夜の繁華街への外出を控えるよう要請。接客業(主にホスト)を名指しし、科学的根拠を解説せずに大きな感染源と思わせる発言をする。
テレビ(ワイドやニュース報道)は煽り報道と番組のネタ作りのために、小池都知事発言に従い、歌舞伎町などを「毎晩回し飲み」「ホストは集団で住んでいる」「○○店で3人の感染!」と大々的に報じ、無症状でも陽性反応が出ることをまだ知らない私たち国民は不安のはけ口もあって「夜の若者が感染を広めてる!」という論調に傾いた。
この先のフリップ芸は「ガイドラインを守らないお店は避けて!」「この夏は「特別な夏」」(8月)と文章的なものが増えた。
「5つの小とこころづかい」(11月)では、5つの小を表したカルタの絵入りのフリップも登場。会食に関して「小人数で」「小一時間」「小声で」「小皿で」(取り分けて)「小まめに」(換気)と注意を促す。さすがに世間から「大喜利かよ」とツッコミが入る。
要請と関係ないが五輪に向けて「来年は+1で幸」(辛い→幸せという意味)などの言葉遊びも。そして今回は「8時にはみんなかえる」とカエルのイラスト入り。
ピン芸人顔負けだが、芸人と違うのはフリップが血税で作られていること。
私が考える東京都の店への要請の問題点。
1 店の時短営業を9時にしたり8時にしたり一貫性がない。
2 飲食店での酒の提供を禁止する。
3 大手事業も、個人経営店もほぼ一律の安すぎる補償金。
3は最大の問題点で、日本は先進国と呼ばれる中で、もっとも出し渋り続けている。日本人の我慢体質を利用して「休業させるなら補償する」という当たり前のことをせず、フリップ芸を駆使して「正念場」「我慢のしどころ」と労働と行動を制御することが、小池都知事の最大の問題点ではないか。
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